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「実は快適、初期分譲マンション」/多摩地域

  • 建物雑想記
  • 2023.02.15

■初期の分譲マンションの特徴
多摩地域における民間分譲マンションの建設は主に昭和50年代から開始された。都区内のような富裕層向けの高級マンションではなく、住宅公団やJKK東京等による公的な住戸を補う位置付けで、一般市民向けの分譲集合住宅として建設された。建設費を押さえるため、住戸を効率よく配置できる間口の狭い住戸が計画され、北側に共用廊下、南側にベランダを設けた、いわゆる「集合住宅型」マンションが多く建てられた。筆者の住んでいるマンションは183号で紹介した長谷工マンションミュージアムに展示されているコンバスシリーズ・ニューライフと規模も間取りもほぼ同じだ。住戸を効率的に高密度に建設しようとすると、この間取りに近づくことになるのであろう。

画一的な計画ではあるものの、実際に住んでみると理にかなっている部分が多い。まず言えることは、南向きのベランダの利点だ。採光と通風、そして採暖と蓄熱を享受できる。また、単純な建物形状と同一な間取りは維持管理に費用がかからないことでもメリットとなっている。

■住まい手による一工夫で快適に

筆者のマンションのベランダは南東側に向いているため、朝日が入り込み易い方位となっている。冬場は暖かく快適ではあるが、夏場は日の出と共に部屋に太陽光が差し込むことになり、朝から暑い。


窓ガラスを熱線反射ガラス(特殊フィルムで熱を反射させるもの)へ交換も可能だが、冬に取り込みたい太陽光も反射してしまうことになる。ブラインドは部屋の内側に吊るすことになるので、熱が室内に入り込み、効果が半減してしまう。窓の外で夏の間だけ太陽光を遮るものといえば、やはり昔ながらのスダレやヨシズが最も効果的だ。サンシェード(洋風スダレ)を吊るすと、程よく太陽光を遮りながらも風を通してくれるので、快適に過ごすことができている。


多摩地域の夜は熱帯夜になることは少なく、風が通ればエアコンに頼らなくても過ごすことができる。しかしながら、我が家の間取りでは窓が共用廊下側とベランダ側しかなく、風が通らないため寝苦しい。



そこで思い出したのが185号に掲載した落合住宅NS型住居だ。この住居は押入を介して居室が隣り合う間取りとなっていて、押入の下段に通風用の地袋があり、ここから風が流れる仕組みとなっていた。我が家も押入を挟んでLDKと和室が隣り合うので、壁に穴を開けることができれば、風が通るはずなのだ。

お盆休みに恐る恐るノコギリで穴を開けてみた。穴が開通すると、予想通りの涼しい風が流れた。わずか幅10㌢×縦30㌢の穴にもかかわらず効果は覿面で、夜も過ごしやすい。秋には和室に朝日が差しみ、想定外の感動もあった。初期の公共集合住宅は機械に頼らない工夫があり、現在でも参考になる。

冬の玄関の寒さにも閉口した。玄関は北西側の共用廊下にあるので、冬季は冷えるだけで温まることがない。さらに玄関ドアにポスト口が付いているため、新聞が刺さると隙間から外の冷気が入ってくるのだ。ここでは玄関土間と中廊下の境に厚手のカーテンを付け、廊下に冷気が入らないようにした。中廊下はベランダ側の居室から浴室やトイレに繋がる主要な通路になっているので、ヒートショックの防止にも中廊下の防寒対策は重要だ。


■断熱等級5を上回る暖かさ
マンションに限らず古い住戸では、暑さ寒さとの戦いは避けて通れないところだが、マンションでは断熱改修を行わなくてもカーテンなどのローテクを季節ごとに使いわけることで、それなりに対処できる。

実はこの点はマンションならではの住環境が大きく貢献している。戸建て住宅では東西南北の四面の外壁と屋根と床を合わせた六面から外気の影響を受けるが、集合住宅(中間階の住戸の場合、次頁図参照)は、上下左右の四面は隣合う住戸と壁や床、天井を共有していることから、直接外気に接することはない。戸建て住宅で六面ある外気との境界面が最小で二面となる。我が家も中間階の住戸で左右が住居の配置なので、外気に面する壁は共用廊下側とベランダ側の二面しかない。つまり外気に面した二面の温熱環境を制御できれば、快適に生活することができるのだ。

では、住まいの断熱性能はどうなっているのだろうか。多摩地域で民間の分譲マンションが建設され始めたのは昭和50年代なので、昭和55年基準の省エネルギー(断熱)性能と想定することができる。現在の省エネルギー対策等級(住宅性能表示制度による基準)に置き換えると断熱等性能等級(以下断熱等級と表記)2となる。昭和55年以前は断熱に関する規定がないので、それ以前は断熱材がない建物も存在する。省エネルギー対策等級は令和4年4月から断熱等級5の運用が開始され、さらにその後の改正により、戸建住宅では最上位等級が断熱等級7まで飛躍した。

省エネルギー対策等級の指標は数値が先行し、実生活が取り残されている感が否めないことから、断熱等級と生活空間の温熱環境の関係をざっくりと捉えてみたい。断熱と暖房の有無によって状況が変化するので、自然室温(無暖房の状態)で比較するとわかりやすい。就寝時に室温20度の部屋で暖房を切り、外気温が〇度の時の起床時の温度を比較すると、昭和55年基準の断熱等級2の建物は、室内の温度が五度まで下がるのに対し、平成28年基準の断熱等級4では室内温度を9度に保つことができる。

我が家も築年代から断熱等級2と推測できる。ベランダ側の部屋は太陽さえ昇れば冬でも暖かいが、掃出し窓は単板ガラスで熱損失が大きいため、夜は厚手の遮光カーテンを閉めて防寒対策を行っている。カーテンや隣戸の影響を加味して温熱環境をシミュレーションすると断熱等級4に近い値となる。確かに戸建ての古屋よりも暖かく感じるが、本当にそのような性能があるのだろうか…。実際の室内温度を測定してみると次頁のグラフのような結果となった。

就寝時と起床時の室温は、就寝時の外気温が〇度の状態で、ベランダ側の寝室は一九度、起床時の外気温は氷点下2度まで下がったが、室温は17度となっていた。共用廊下側は防寒カーテンの内側にある中廊下と水廻りでは、室温が就寝時に17度、起床時は14度だった。この温熱環境は断熱等級5を超え、予想を上回る性能である。カーテンの設置だけでここまで環境が良くなるのは、集合住宅の特性が温熱環境にプラスに働いているからだろう。

世界保健機関は2018年に「住まいと健康に関するガイドライン」を発表し、寒さによる健康影響から居住者を守るために、室内温度を18度以上にすることを勧告している。ガイドラインでは部屋間の温度差による血圧の変動に特に注意を促している。温度測定の結果から水廻りに補助暖房を併用するだけで、ガイドラインの環境に近づけることがわかった。


■集まって住み続けることが大切
「集合住宅型」マンションは画一的な配置や間取りから、時代遅れの集合住宅とされている。一方、温熱環境の視点でみると「単純な外形」、「南側窓からの採光、蓄熱」、「同じ間取り」であることはメリットとなっている。そして個々の住戸が集まり、お互いの熱を共有することで快適な温熱環境ができているのだ。つまり、この良好な環境は隣戸に人が住んでいるという、条件付きであることがわかる。空き住戸をつくらないためにも、住み続けたい場所となる必要がある。今後のマンションは、定期的な修繕や管理だけでなく、コミュニティのあり方がより重要となるだろう。

■参考文献
良好な温熱環境による健康生活ハンドブック/2020年/一般社団法人ベターリビング