転勤族だったクライアントの住宅に対する要望は「ライフスタイルに合わせた間取りと、瓦屋根の落ち着いた住宅」と至ってシンプルなものでした。瓦は耐久性のある素材ですが、初期コストが嵩むことから最近はあまり使われなくなっている材料です。瓦で葺くのであれば瓦の屋根を外観デザインの要として設計したいと思いました。日本家屋の外観は屋根で決まると言っても過言でないからです。旗竿敷地の中で間取りのと関係を紐解いていくと、T字形の大屋根+下屋という外観が決まっていきました。瓦屋根には深い軒が似合います。軒は夏の太陽を遮り、雨水が壁に当るのを防いでくれます。瓦葺きの屋根は結果として日本の気候風土に適したデザインに繋がると言えます。
T字形の平面系の中心に台所を配置し、その対面に家族の集まる食堂を設けました。食堂には2階の階段ホールに繋がる大きな吹き抜けがあり、どこにいても人の気配の感じる空間となっています。内装は真壁(構造の柱と梁を表しにした壁)に月桃紙貼りとし、板の間(フローリング)にも障子を入れてモダンな和風のデザインでまとめました。
玄関のガラス引戸(ペアガラスとなっている)を戸袋に引き込み網戸にすると、玄関から食堂そして吹き抜けを伝って2階まで風が通り抜けます。網戸には堅牢なステンレス網を使い、ガラス引戸同様に鎌錠を設けて防犯力を高めました。シンプルながらも心地よい和風の家ができあがりました。
瓦屋根、和モダン、吹き抜け、和風住宅、書斎、リタイア後の住まい、旗竿敷地、対面キッチン
掲載誌 チルチンびと 50号 2008年夏